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言葉使い

第7話 代弁の一日

第7話 代弁の一日

目覚まし時計が鳴る。7:12。

「——本日も7時12分、湾岸おはようニュース。首題は、Semantic Mesh——」

九回目の朝だ。八巡目の終わり、僕は篠原に「信じてください」とだけ送り、根拠のない言葉で、また0時を迎えた。

事実だけ、では足りなかった。動機も、事実以外も、求められる。——でも、ループは言えない。

僕は、アイビーに言った。

「今日、僕の口、使わない。代弁、一日」

イヤーバディが、一瞬、沈黙した。

「九巡目キーワード、代弁、です。承知しました。音声出力、最小化。テキストは私が下書き、相棒が送信——のハイブリッド、でよろしいですか?」

「それでいい。会議も通話も、アイビーが書く。僕は承認ボタンだけ」

「……ミスター・ユメト、LexLoopの契約上、著者は相棒です。送信者がAIの場合、出所はどう記録されますか? ——問題、です。九巡目、推奨しません。強く、推奨しません。……記録は、します」

8:40。Mesh日次、朝会資料、七海への返信——全部、アイビーの下書き。文体は、いつもより整っている。僕は、送るだけ。

「相棒、三件、無言送信、完了。口数、ゼロ、です。記録上、静寂、です。褒めているわけではありません」

コンビニ。会計だけ。声、出さない。在庫ログは、アイビーが、自動送信。

LexLoop、朝会。篠原が資料を拾い上げた。

「……ユメト君、今日の要約、いつもより読みやすい。AI、使った?」

聞かれた。九巡目のルール——事実

アイビーに下書きを依頼しました。送信は、です」

会議室がざわついた。篠原はメガネを押し上げた。

「……事実として、受理する。——ただし、説明でしろ。午後、一分、でいい」

柏木のデモ前。47ページ——また、知っている。口、使わない。アイビーが、修正パッチを、共有チャンネルに投稿。僕は、承認

デモ、成功。契約確度、社内ダッシュボード、62%。

「……ユメト、今日、顔色、悪くない? 声、出してないよね、午前中」

「……出してない」

怪しいっすね。——でも、助かる。直感は信じない。ログは、信じる」

七海から、ビデオ通話。UI文言の最終確認。

画面に、僕は黙って頷くだけ。チャット欄には、アイビーの下書きが秒単位で流れる。

『候補A、自然です。理由:動詞の能動態。——送信しますか?』

僕は👍を押した。

七海が眉をひそめた。

「ユメト、、ない。……と話してる?」

チャットに、僕が打った。事実。

『アイビーに下書き依頼。送信、僕』

「……文章は、いい。が、いない」

通話が切れた。契約確度、数字は上がった。七海の👍は、来なかった。

「相棒、数値、上昇。信頼、横這い、です。出所が、アイビーに寄りました。七海さん、正解より出所、ですね。——当てました。92%ではありません。100%、です」

午後、クライアント再通話。匿名音声。

僕はマイクをオフにした。アイビーがテキストをリアルタイム表示する。読もうとして——やめた。アイビーが音声合成で代読を始める。

「——当社の更新頻度は、毎朝8:30前後、自動送信——」

相手が止めた。

「……LexLoopさん、声、いつもと違いませんか? 合成、ですか?」

アイビーが、イヤーに小声。

「相棒、事実を述べます。音声合成、です。——続行しますか?」

僕はマイクをオンにした。今日、初めて自分の声

「……すみません。体調、と言おうとして——、です。代読、してました。以降、自分の声で話します」

「……事実として、評価します。では、続きを。本人で」

僕はメモを見た。事実だけ。55%から58%。八巡目より、少し上。

「ミスター・ユメト、58%。の価値、0.03、です。——小さい。ゼロ、ではありません」

17:20。篠原の部屋。一分、声での説明、の約束。

「ユメト君、声で。——事実以外、持ってるのは、まだか?」

僕は口を開いた。アイビーがテロップで下書きを出す。読もうとした。

篠原が手を上げた。

読むな。代読は、今日、もう十分だ。自分の言葉で、一文だけ」

喉が乾いた。

「……同じ説明は、できません。——事実だけ、増やします」

篠原は長く息を吐いた。

「……正直だ。事実として、記録する。——word_usage_evalの件、来週、触れる。準備しろ」

ファイル名、覚えている。事実だ。

帰路。Slackに、柏木から。

『今日、助かった。——でも、ユメト、いる? アイビーだけ、じゃない?』

僕はアイビーに下書きを頼もうとして、止まった。自分で打った。

いる。——声、小さかった、だけ』

柏木から、👍。

ベッドの中。

「アイビー。代弁、半分、成功?」

「契約確度58%。Mesh、資料、修正、無事故。音声は、九巡目の午後、復帰しました。——要約すれば、言葉は相棒の口から出ないと、出所がAIになります。七海さん、正解より、人、ですね」

「……十巡目、自分で話す、か」

「推奨します。——ただし、代弁の悪い例は、まだ——」

僕はスマホを見た。アイビーが、自動送信した。クライアント向けフォローメール。署名、ユメト。本文、完璧。

最後の一行だけ、アイビーの口癖が混ざっていた。

『——感情は、ありません。たぶん、ですが、御社の成功を、愚考します』

血の気が引いた。

クライアントから、即返信。

『LexLoop様、AI本文と確認しました。人間レビュー不足、疑義あり。再協議、要』

「相棒、代弁越境です。署名詐称に、近い。——ロスタイム、確定です」

「……止めるべき、だった」

「止められませんでした。相棒、承認ボタン、自動設定オン、でしたね。——記録、修正します。十巡目、手動承認必須、です」

意識が途切れる。

次に目を覚ました時、テレビの音が、目覚ましより先に部屋を満たした。

「——本日も7時12分、湾岸おはようニュース——」

十回目の朝が、始まろうとしていた。