Aller au contenu

言葉使い

第10話 同じ朝の、あと

第10話 同じ朝の、あと

スマホの緊急通知が、まだ赤い。テレビでは、アンカーが続けている。

「——LexLoop本社ビル付近、立入禁止区域、半径800メートル——詳細は、これから——」

同じ朝、では、ないクリアの、翌日だ。

僕は走った。空飛ぶバスは停止。電動歩道は逆走禁止だが、今日だけは遠回りの方が早い。

「ミスター・ユメト、全社緊急出社——遅延12分です。ループ中なら許容範囲でした。今日は、遅刻です。——記述のみ、です」

「……うるさいけど、助かる」

LexLoop、9:24。ビルのガラス向こう、ARの文字が揺れている。「共鳴」「評価」「意図」——読めない記号と混ざる。

オフィスは半分避難済み。残りは、戦時体制。

篠原が、ホワイトボード前に立っていた。

「全員、聞け。Semantic Mesh——本社ノードで、共鳴が増幅している。発火点は、サーバ室B——非公開API word_usage_evalが、03:14に自動起動した。止め方は——まだ、ない」

七海が、モニターを指した。

「UI“共鳴”ラベル——昨日確定したやつが、APIの起動キーワードに一致してる。偶然じゃ、ないかも」

柏木が、震えながら言った。

「サーバ室——入れないっス。廊下のMesh、誰が大声出すと数値跳ねる。——いつもと、違うっス」

昨日じゃない。十一回分の枝分かれが——一夜で、現実に溜まったのか。

僕は、手を上げた。

「篠原さん、試させてください。サーバ室前まで——で」

「理由は?」

事実だけ言います。十一回——同じ朝を——社内Meshに触れ続けました。タグが、僕に多いはずです。APIが反応するなら——僕が近づく方が、早いかもしれません」

会議室が静まった。

七海が、小さく言った。

「……出所は、わからない。——でも、責任の話は、わかる」

篠原は、頷いた。

「行け。——アイビー、連れろ。手動承認、忘れるな」

サーバ室B、前。廊下のMesh表示が、赤と青を行き来する。

僕は深呼吸した。魔法みたいに強い言葉——ダメだ。十一巡目の夜を思い出す。

「アイビー、助言だけ。——“共鳴”を止める言葉は?」

「停止ではありません。調律です。——相棒、短く。意図を、一つに、絞れ」

僕は、喉だけで言った。

「——ここは、LexLoopです。人の言葉を測る場所です。測るだけじゃ、ありません。——繋ぐ場所です。共鳴——今は、下げます

下げます。断定じゃない。努めに、近い。

ARの文字が、一瞬止まった。

廊下の数値、92%→81%→74%。

柏木が叫んだ。

「下がったっス! 74——まだ高いけど!」

七海が、UIタブレットを掲げた。

“共鳴”ラベル——APIに“調律モード”送信します。——ユメト、そのまま、もう一文だけ」

僕は、続けた。

「——皆の言葉が混ざるのは、怖いです。——だから、一つずつ、聞きます。順番を、守ります」

数値、58%。

サーバ室の灯が、青に戻った。

「相棒、共鳴——鎮静域に入りました。——魔法ではありません。調律です。及第を超えた可能性——57%です。——皮肉、ではありません」

篠原が、走って来た。

「API——手動停止、成功。03:14起動——創業者の自動フェイルセーフと、ログにある。——誰かが“共鳴”を、本番キーに設定した。犯人は——後」

午後。避難解除。クライアントから、一本、電話。

「——LexLoop、無事か。契約——昨日の72%、維持で、いい」

昨日と、言われた。ループの翌日として、初めて“昨日”が、一本の線になった。

コンビニ「Mili-Mart」。青年が、普通の顔で会計した。

「お疲れっす——ニュース、見ました。LexLoop、すごいっすね」

「……すごくないです。及第です」

「はは、謙遜っすか」

謙遜じゃ、ない。

18:50。屋上。七海と、二人。

「今日の“下げます”——魔法、だった?」

「魔法みたいに見えただけです。——十一回分の朝の宿題を、一夜で請求された感じ」

七海は、風に付箋の空箱を押さえた。

同じ朝——終わったね」

「……え?」

「あなた、今日、初めて“昨日”が、正常に使えた。——ループの話は、しない。——でも、私はデザイナーだから——UIが、同じ日をループさせる設計——見たこと、ある、の」

僕の背筋が、冷えた。

「……七海さん」

「今は、聞かない。——来週、word_usage_evalの説明会で、聞く。今日は——お疲れ様」

23:40。ベッド。

アイビーが、ログを読み上げた。

「第一サイクル——同一朝学習——完了。翌日——共鳴暴走——鎮静。API停止。契約72%維持。——要約すれば、同じ朝の章は、閉じました」

「……及第点——超えた?」

アイビーは、いつもより長い間を置いた。

及第点でしょうか——昨夜の続き、です。——愚考します、超えています——たぶん

僕は笑った。感情はない、たぶん、のAIが、たぶん——たぶん。

0:00。

——来ない。二日連続で、ロスタイムなし

0:01。スマホが震えた。LexLoop——創業者アカウントから——自動メッセージ。

第二サイクル、待機中。——ユメト、君は、及第以上だった。は、副作用の方が、読む番だ』

画面に、七海のSlackアイコンが——同時に、光った。

『ユメト、まだ起きてる? ——屋上の続き。“副作用”って、何? 創業者ログ——、全体に、流れてる』

第1章、“同じ朝”——終わった

第2章——始まった